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一膳飯とお斎について

葬儀法要後に僧侶や参列者と会食することを「お斎」といいます。お斎の存在は知っていても意味やマナーについて詳しくない方も多いかと思います。お斎の由来や意義・施主としてのマナーなど施主としてお斎を執り行う際に覚えておくべき点をくわしく解説します。また、お葬式には地域や宗教宗派によって様々な習わしやしきたりがあります。その中で、一膳飯や茶碗割りといったようなご飯やお茶碗に関わる習わしは今もなお、全国各地で引き継がれているようです。
今回の記事では、一膳飯とお斎についてを詳しくお伝え致します。


お斎について

仏

仏事には「お斎」という風習があります。ここからはお斎の読み方や本来の意味、そして現代におけるお斎の捉え方についてお伝え致します。まずはお斎の読み方についてですが、お斎は「おとき」と読み、法事の際に施主が僧侶や参列者に賄う食事のことを指します。

お斎には僧侶や参列者に対する感謝の気持ちと故人を供養する意味が含まれているため、施主が費用を負担するのが一般的です。地域によっては葬儀の朝に故人と一緒にとる最後の食事を指すところもあり、また別の地域では「出立ちの膳」と言って出棺前に振舞う食事のことをお斎というケースもあります。通夜振る舞いや精進落としもお清めと呼ばれ、お斎に含まれます。以前は肉や魚を使用しない精進料理が定番でしたが、現代では精進料理にこだわらず故人や参列者の好みに合わせた料理を提供するケースも増えてきています。お斎を執り行う場所も、自宅やレストラン・料亭など多様化してきています。しかし、ここで注意が必要なのが伊勢海老や鯛、昆布やお赤飯などのお祝い事に使われる食材は避けなければいけません。おせち料理によくある紅白のものや松竹梅を飾ることもタブーとされていますので併せて注意が必要になります。また、先に挙げた注意点以外にも地域によっては独自のルールがある場合もありますので、近所の方や地域のしきたりに詳しい方などに確認するとより安心です。

仏事における会食には、お斎の他に「忌中払い」や「精進落とし」があります。忌中払いとは、喪明けとされる四十九日に僧侶や親族など故人の供養に関わった方が集まり会食をすることで、仏教では故人の供養のため喪が明けるまでは肉や魚を使わない精進料理を食べる風習があります。忌中払いのタイミングで、精進料理以外(肉や魚を使った料理)を食べることは「通常の生活に戻る」という節目の意味もあるでしょう。地域や宗派によって忌中払いを「精進落とし」と呼びます。ただし忙しい現代社会では何度も親戚を集めることが難しいことが多い傾向にある為、葬儀後に初七日法要と合わせて行うケースも少なくありません。

本来お斎は「僧侶の食事」を指す言葉でした。仏教には「出家者は正午を過ぎてから食事をしない」という戒律があります。斎の漢字には「つつしむ」という字義があり身を慎んで清浄な生活を送るという意味から、正午前の食事を「斎」と呼ぶようになりました。そして現代、仏事のときの食事全般をお斎と呼ぶようになったのです。
神道やキリスト教にも、お斎のような会食があるのはご存知でしょうか?神道には神事の最後に供物やお酒を飲食する「直会(なおらい)」があります。神様にお供えしたものを口にすることによって身体を清め神事を手伝ってくれた方々への感謝を示すものです。キリスト教は、式の後にサンドイッチやお菓子・お茶などで参列者をもてなす会食をします。

お斎を含め、仏教において僧侶や参列者との食事は重要な場です。その理由には法要を行う目的や禅宗系の食事が大きく関わっています。ここからは、なぜ仏教で食事が重要視されているのかをお伝え致します。お斎が供養となることを説明する前にまずは法要の目的についての理解を深めましょう。法要とは故人が悟りを開き成仏することや故人がより良い世界に生まれ変わることを願って執り行う儀式です。仏教では現世の人々の善い行いが故人の供養にもつながるといわれており、食事を振る舞うこともそのひとつと考えられます。その為、お斎は故人の供養になるとされ重要視されています。しかし、現代においては僧侶や参列者への感謝や親族の親睦を深める場としての意味合いも強くなっています。

お斎の返礼品と服装について

お斎に参列して頂いた方には返礼品(引き出物)を配布します。お開きの時間が近づいたら、返礼品を参加者の席の横に置いていきます。まず、最初にお坊さんの席から置いていくのがマナーです。法事の前にお坊さんにお布施をお渡しする場合は引き出物と合わせて事前にお渡ししても問題ありません。お斎の参加者が大人数の場合はあらかじめ各席にセッティングしておいても失礼にはあたりません。

法事の返礼品は、悲しみが残らないようにという意味から消え物とされる、お菓子やお茶や海苔、日常よく使う洗剤やタオルなどの実用品がよく選ばれます。お菓子は、日持ちするものであれば和菓子でも洋菓子でもどちらでも問題ありません。ご当地の銘菓や故人が好きだったものを選ぶと故人を偲ぶよい手土産となります。キッチン用品や入浴に関するものも、哀しみをきれいに洗い流すという意味で良いとされていますが持ち運ぶことを考えて重量のある洗剤を選ぶのであれば軽量になるようにコンパクトな物を選ぶと良いでしょう。遠方から来られている方やご高齢の方もいらっしゃる場合には尚更配慮して持ち運びが難しいものや重いものは避けましょう。自分の好きなものを選ぶことができて比較的軽量なことから、カタログギフトを利用される方もいらっしゃいます。ただし、高齢の方の中には選ぶことが難しく仕組みがよくわからない方もいらっしゃるので、参加者に高齢の方が多い場合には食べ物等のお品物が良いでしょう。お斎参加者への返礼品の金額相場は、2,000~5,000円です。

返礼品として、ふさわしくないものを贈ってしまうと失礼にあたります。昆布や鰹節のような結婚の結納品となるものは縁起物のためお斎の返礼品としてはふさわしくありません。また、日本酒やビールなどの詰め合わせはお祝い事を連想させるものであることや、持ち運びにくいという理由から避けた方が無難です。地域によってはお酒を返礼品とするところもありますので一概にマナー違反とは言えませんので確認すると良いでしょう。生ものや冷凍品は衛生上返礼品としてはあまり適していません。また金券はもらって嬉しいものではありますが、あからさまに金額がわかってしまうため返礼品としては避けた方が無難です。

お斎は法要の後に行われるので、そのままの服装で参加することがほとんどですが、法要後に平服に着替えても問題ありません。男性は、地味な色合いのスーツを着用していることが多いと思いますが上着を脱いだりネクタイを外したりなど多少気崩しても失礼になりません。女性は地味な色合いのワンピースやアンサンブル、パンツスーツを着用して参加します。スーツの上着を脱いでも問題はありません。カジュアルすぎる服装は避ける必要がありますが、食事をしながら会話をする場なので堅苦しい服装である必要はありません。ただし、格式が高い料亭などで行われる場合には、法要の服装のまま崩さないようにしましょう。着替える場合は、他の参加者の人とあまり差がないようにすると良いでしょう。

お斎で行う施主の挨拶と席順について

お斎では様々なタイミングで施主が挨拶を行います。お斎の挨拶の主なタイミングは以下の通りです。

お斎で行う施主の挨拶のタイミング
・食事の開始時の献杯
・食事終了後
・お開きの挨拶

また、挨拶のパターンは様々で施主のみが挨拶を行うとは限りません。考えられるパターンについては以下の通りです。

お斎で行う挨拶のパターン
・施主が一人で挨拶を行う
・司会者を立てて、施主が献杯の挨拶を行う
・施主がはじまりの挨拶、他の親族が献杯の挨拶を行う

この様に、必ずしも施主のみが挨拶を行わなければいけないという事はありませんので、挨拶が苦手という方は無理に一人で全部行おうとせず、司会を立てたり献杯の挨拶を親族にお願いしてもマナー違反にはあたりませんので、無理のない範囲で挨拶を行いましょう。お斎の挨拶は参加してくれたことに対するお礼と法事を終えたことの報告の言葉を入れます。食事には参加してくれた方へのおもてなしの気持ちがあることを伝えましょう。施主の挨拶は1分程度にまとめるとベストです。以下に挨拶の例文としていくつかご紹介いたしますので併せて参考にしてください。

お斎開始時の挨拶例文
本日はお忙しい中、(続柄や名前)の〇回忌法要にお集まりいただきありがとうございます。
多くの方にご参加いただき、(続柄や名前)もさぞ喜んでいることでしょう。ささやかではございますが、お料理をご用意いたしました。お時間が許す限り、生前の(続柄や名前)を偲びながらお召し上がりください。本日はありがとうございました。

施主がお斎開始の挨拶をした後に、献杯の挨拶を始めます。施主以外の方に挨拶を依頼している場合は施主は挨拶後に「献杯の挨拶を(名前)さん、よろしくお願いいたします」など紹介を入れるとよいでしょう。

献杯時の挨拶例文
故〇〇の(友人などの関係性)の(自身の名前)でございます。本日は〇〇との楽しい思い出を、存分に語り合いたいと思います。僭越ながら献杯の発声をさせていただきます。お手元にグラスの用意をお願いいたします。献杯。ありがとうございました。

献杯をする前には位牌及び遺影の前に酒の入った杯を置きます。お斎の参加者全員がそれぞれの杯を手に持ち、献杯の挨拶をする人が位牌や遺影の方も向いて軽く杯をかかげたら、少し低いトーンで「献杯」と発声し列席者も続いて静かに発声します。地方や宗派によっては、献杯の方法に決まりがあったり、献杯をしなかったりする場合もあります。葬儀社や神社、お坊さんに確認すると安心です。依頼していた場合は献杯の挨拶後、施主からお礼を伝えた後「それでは、どうぞお食事をお召し上がりください」などと発声して食事をはじめます。

お開きの挨拶例文
本日は、ご多忙中のところ故人のためにお集まり頂きまして誠にありがとうございました。お話は尽きませんが、これにてお開きとさせて頂きます。今後とも、どうか変わらぬお付き合いご指導のほどよろしくお願い申し上げます。本日は、誠にありがとうございました。

お斎の挨拶をする際、挨拶は簡潔にまとめ、故人や参列者に背を向けず、故人の具体的な闘病の様子などは避け忌み言葉を使用しないよう注意が必要です。
お斎にはマナーとされる席順がありますのでお坊さんが出席される場合はお坊さんに上座の中の最も故人に近い席に座ってもらいましょう。お坊さんの隣には施主が座ります。遺族の代表者はその場を取り仕切ったり挨拶をしたりする都合上、上座に座ります。続いて親族の年長者が座ります。次の席以降は親族以外の参列者に座って頂き、残りの親族は末席に座ってもらいましょう。
お坊さんが出席されない場合や、親族のみの場合には会話がしやすいように着席してもらって問題ありません。配膳のお手伝いを行ったり飲み物を注ぐなど、よく動く人は下座や出入口に近い席に座ると動きやすいです。また、小さなお子さんと出席する場合も出入口に近い場所に座って頂くと良いでしょう。地域やその家の決まりがある場合には、その慣習に従って席順を決めましょう。


一膳飯について

供養

一膳飯というのは故人にお供えするご飯のことを指します。枕飯ともいい、逝去後に安置している故人の枕元にお供えします。元来、一膳飯は二膳や三膳はない一膳限りということで、旅立って二度と戻らない相手との別れの膳で出されていた古来からの習わしです。こういった理由が込められている一膳飯は葬儀の時のみならず嫁入りや独立の際にも行われていた作法でした。近年では、一膳飯は最後の食事という意味合いがあることから「死者のこの世での最期の食事」として葬儀の作法として使われるようになりました。
茶碗に山盛りにご飯を盛り中央に箸を立てる一膳飯ですが、昔は家庭で食事をとる際に山盛りにご飯をよそうのは縁起が悪いと言われたり、一口だけでも二膳目を食べるといった様な躾をしているような家庭もありました。それには一膳飯が最後の食事と言う由来と死者を連想させるということから食事の作法としては忌み嫌われていた為とされていますが、近年では時代の流れと共にそういった考えや躾は薄れてきています。古くは日常的にご飯を炊くのに使用するかまどとは別に、一膳飯を炊くために新しくかまどを用意したり、お米を炊くのに使用する鍋も日ごろ使っている鍋とは違う鍋を用いるなど、生きている人の食べるご飯と死者に用意するご飯は徹底して区別し用意していたといわれています。また、お米も研がずに炊くなど普通のご飯の炊き方とは違う炊き方もあったようです。

一膳飯の作り方と箸について

一膳飯については宗派や地域によっても作法が異なりますが、ここからは一般的な一膳飯の作り方についてご紹介していきます。
まず一膳飯を作る際には、新しく一合の白米を炊きます。これには、先にお伝えした様に生きている人の食べるご飯と死者に用意するご飯は区別し、一膳飯は死者のために用意し、生者が食べるものではないという考え方から来ています。また、炊きあがったお米は一粒も残さず使用するようにし、茶碗二つに多めのご飯をよそい二つをギュッと合わせます。その後片方をゆっくりと外すと、盛り上がった綺麗な山の形になった一膳飯ができます。その中央に一膳の箸を揃えて垂直に立てれば一膳飯の出来上がりです。この際に山の高さは高ければ高いほど良いとされています。茶碗や箸は、故人が生前使っていたものを使うようにしましょう。また、地域や宗派によってはお米は白米ではなく玄米を使うこともあるようです。

故人が生前使用していた茶碗にごはんを盛って中心に箸をつきたるとお伝えしましたが、箸は日本で一番古い歴史書である古事記にも登場するように、古くから日本人にとって生活に欠かせないなじみのある道具であると同時に呪術的な役割もあったようです。一膳飯に箸を立てる際には、一膳の箸を揃えて垂直に立てる以外にも、箸を一本だけ立てたり普通のお箸と竹の箸を一本ずつ立てたり、箸の高さを合わせないようにしたり、十字にしたりなど箸の立て方にもいくつかバリエーションがあり地域や宗派によって異なります。箸を立てる理由には「お召しあがりください」という意味や「他の人には分けない」という意味があるなど諸説あり、中には「この世とあの世の箸渡し」といった語呂合わせのような説もあります。先にもお伝えしましたが、箸の立て方については宗派や地域によっても異なり、中には一膳飯を盛っても箸は立てない場合もあります。

茶碗割りの儀式について

葬儀における茶碗の用途として一膳飯と同様に知られているのが出棺の際の茶碗割りです。出棺に合わせて故人の使っていたお碗を遺族が割る習慣は現在も受け継がれています。茶碗割りが行われるようになった理由については故人の魂をあの世へと送り出すことが挙げられます。故人が生前愛用していた食器を割ることで食事をできない状態にし、故人の現世への未練を断つという考えで、故人の死出の旅路に愛用の品を一緒に持たせてあげたいという故人を思いやる気持ちもあったようです。更に、茶碗割りには故人の為のみならず遺族が気持ちを整理するという意味合いもあるのです。特に土葬が主流だった時代に故人の持ち物を壊すことで別れを意識づける意味合いもあったのかもしれません。※浄土真宗では亡くなった直後に極楽浄土に行くという考えがある為、茶碗割りをする必要はないとされています。

通常、食器は同じものを長らく使い続けます。そのため、古来より「食器には人間の思いが宿る」とされてきました。また、食事は生きるための力を体に取り入れる行為であり、生の象徴でもあります。故人の生きた証を葬儀では一緒に弔いたいと遺族が考えるようになったのはごく自然な成り行きだったといえます。その為、葬儀で使う茶碗は原則として生前故人が使用していたものを選びましょう。しかし事情によっては故人が愛用していたお碗が見つからないケースもあるでしょう。この様な場合には葬儀を施行する葬儀社やお寺に相談してみましょう。地域の風習などもよく分かっているので相応しい対応を教えてくれるでしょう。

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